【答が欲しい(後編)】

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naomi-h

在英のフリーランス通訳・翻訳者です。教育、福祉、医療、メンタルヘルスを得意分野としています。イギリスでの「発達障害」に関する話を、自分が見聞きした経験を元に書いて行きたいと思っています。

「アリス」から息子さんを転校させると告げられたのは、夏休みに入るほんの数日前でした。

通っていた学校でのサポート・担任の理解に対して限界を感じた「アリス」ご夫妻は、息子さんが必要としている適正な支援をしてくれる公立一般校での受け入れ先を探して市内の数校に打診をしていたらしく、学年末ぎりぎりで良い学校が見つかったと、同級生がお別れ会を開く間もなく慌ただしく転校していきました。

イギリスの教育システムは日本と大きく異なる為、ここで簡単に説明をしておきます。

公立校には、一般校(普通校)、スペシャル・スクールと呼ばれる「特別支援校」があります。               イギリスでの私学進学率は日本と比べると非常に低い為、ほとんどの児童は公立校の一般校へと進み、スペシャル・スクールへは、必要とする支援の度合いが非常に高い児童のみが入学する傾向が年々強くなっています。

一般校にするか、スペシャル・スクールにするかは、親御さんに選択する権利が与えられており、【発達障害】を抱える児童は、このスペシャル・スクールではなく一般校を選ばれる方が殆どのようです。   また、重度の「ダウン症」等でも、設備、要員的に学校が対応可能であれば、親御さんが希望すれば一般校へ進むことは可能です。

公立の幼稚園、小学校は基本的に学区制となっており、申込み時には希望園・校に順位をつけて申請し、自宅からの距離、申込者数等を元に、県の教育委員会に匹敵する機関が公平に割り振りをするシステムです。

一旦入学をすると、隣町などに引っ越しても親御さんが送り迎えを出来る場合はそのまま在校することも可能ですし、今回の「アリス」の例の様に、途中で他校へ転校することも、受け入れ先さえ見つかれば簡単にできます。

なお、幼稚園・小学校・中学校の入学申込み時に、「特別支援教育認定」を受けている児童は、学区には関係なく入学先を自由に選び・希望できる優遇措置が図られています。支援を必要とする子により相応しい学校を親御さんが選べるという素晴らしいシステムなのですが、やはり問題点もあり、必ずしも親子ともどもこの恩恵にあずかっているかというと、そうとも限らない様子です。この件に関しては、また別に機会にお話ししたいと思います。

さて、「アリス」ご夫妻の転校先探しですが、まず空きがある学校を探すことが最初の難関でした。

と言うのも、イギリスは一クラスあたりの定員が公立校では30名と法令で決められており、人口の上昇に伴う公立幼稚園、小学校の増設が追い付いていないわが町などは慢性的な学校不足に悩まされており、新しく引っ越して来られた方たちは、公立校の空き待ちをしながらその間私立へ通わせるご家庭も少なりありません。

「アリス」ご夫妻が受け入れ先を探して何校もコンタクトしていった中で、空きがあったのは、皮肉にも市内で【発達障害】及びその傾向が強い児童を積極的に受け入れている、一般校でありながら「準スペシャル・スクール」的な存在として知られている学校でした。

「もしかしたら【発達障害】の可能性があるかもしれない」という事実に向きあう覚悟を決めながらも診断名が特定できなったこともあり、一体どんな支援が必要で効果があるのかわからないままの学校探し。

「あなた方のお子さんがどんな支援を必要としているのか、私には判ります。喜んでお引き受けしましょう。」というこの学校の校長先生の一言で、ここに任せてみようと思ったそうですが、一般校から、準スペシャル・スクール的な学校への転校は大きな決断だったと思います。

ここで、その転校先でどんな支援を実際受けれたのかお話できれば良いのですが、実はこの転校を機に、私と「アリス」一家とのおつきあいは徐々に疎遠になってしまいました。

理由は、私が必要以上に「支援」の話題に過敏になり過ぎたからです。                     「こんな言葉は使ってはいけないのでは」「この話題は避けたほうがいいのでは」等、おそらく「アリス」が気にすることもないような他愛のない話まで言葉を選ぶようになり、だんだんと連絡するのが億劫になっていっていきました。

特別視せず、普通に接し続けていれば良かったのでしょう。

そして、きっと「アリス」もそれを望んでいたのだと思います。                           しかし【発達障害】(の可能性がある)お子さんに個人的に親しく接した経験がなかった私はそこに気がつかず、まるで腫物にでも触るかの様に、彼女とお子さんに対しての接し方にナーバスになるようになってしまったのです。

残念ながら、彼女との付き合いは途切れてしまいましたが、この経験が元となり、その後「ADHD」のお子さん、「自閉症スペクトラム」のお子さんをもつお母様方と、長年にわたる親しいお付き合いができることとなりました。

その後、「アリス」ご夫妻の息子さんはこの転校先でも落ち着くことができず、私立普通校に付随する準スペシャル・スクールへと再度転校し、ここで学校の協力を得て「特別支援教育認定」を申請・受理され、希望の中学に進むことが出来たと人の噂で聞き及びました。

次回は、「一般校間での支援の格差」についてお話したいと思います。

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在英のフリーランス通訳・翻訳者です。教育、福祉、医療、メンタルヘルスを得意分野としています。イギリスでの「発達障害」に関する話を、自分が見聞きした経験を元に書いて行きたいと思っています。