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私が住むイギリスの公立の幼稚園・小学校は、一学年は一クラスから三クラスで構成されており、一クラスあたりの定員については30名と法令で定められています。
幼稚園・小学校では、担任が1人にティーチング・アシスタントと呼ばれる授業助手が1~2名付いており、これに父兄のボランティアが読書指導として交代で参加します。
この数字だけを見ると、子供30人に対して、担任を含めた大人が常時最低3名はクラスの中にいるのですから、十分目が行き届くと思われる方が多いかと思います。ですが、これはあくまでも普通校において、支援が必要である生徒がいない、仮に居ても少数を想定した比率です。
ここ数年スペシャルスクールより普通校を選ばれる親御さんが増え、また「インクルージョン(統合教育)」という考え方も追い風となり、必要な支援の程度にもよりますが、「発達障害」を含め支援を必要とする生徒を積極的に受け入れる普通校が増えてきています。
私の子供達が通っていた小学校の校長先生は、「どんなに支援が必要な児童でも、私がここへ受け入れます」という強い信念を持たれており、諸々の事情で他校で入学を断られた生徒たちを、空席がある限り全員受け入れていました。
「誰でも公平に受け入れる」
公立校という立場として当然のことです。そうあることが理想的であると言えるでしょう。しかし、理想論を実行に移す為には、整備された受け皿がなければ空回りするだけです。
その一例が「アリス」の息子さんと私の息子がいたクラスです。
彼等のクラスには、
・ADHDの児童一人
・自閉症とADHDを兼ね持つ児童一人 (他校にてスペシャルスクールへの転校を勧められたが父兄が拒否した為、この学校へ転入)
・失読症の児童3人(一人は2年後に転出)
・本来ならば支援を受けるべきである「アリス」の息子さん
と、30人の定員の中に支援を必要とする生徒が多い時で6名も在籍していました。
「特別支援教育認定」の児童に対しては行政より学校へ補助金が支給されます。 しかし、どういう事情があってか、自閉症の児童へパートタイムの支援スタッフがあてがわれた以外、このクラスへの追加要員は補充されませんでした。
そうなると、当然ながら支援をより必要とする児童へ手を取られる為、そうでない生徒たちへのサポートは後回しになってしまいます。
特に失読症に関しては、一般的な勉強の遅れか、失読症であるかの見極めが難しく、そうでなくても目が行き届きにくくなっていたこのクラスでは、適切な支援がされない状態が何年も続いていました。
各学校には、特別支援教育担当(Special Educational Need Coordinator;SENCO)が必ず一名任命されているのですが、この学校ではこのクラス以外にも、支援を必要とする児童があまりにも多く、その役割機能も飽和状態になっていたのではないかと思います。
「アリス」の息子さんの支援の必要性を判断できなかった担任教師は、発達障害の児童への指導知識がなかっただけでなく、見抜く余裕がなかったのかもしれません。 30人に対して6人の支援必要児童の割合は高すぎ、追加サポート要員無しでは、担任には負担が大きすぎたのでしょう。
「誰でも公平に受け入れ、支援したい」というこの校長先生の信念には、残念ながら現場の実情と大きなギャップがありすぎ、結果、その思いは形にして生かせず、何人もの児童が、父兄が、そして現場の職員までもが犠牲になるという、皮肉な結末を迎えました。
この記事を書いた人

- 在英のフリーランス通訳・翻訳者です。教育、福祉、医療、メンタルヘルスを得意分野としています。イギリスでの「発達障害」に関する話を、自分が見聞きした経験を元に書いて行きたいと思っています。
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